農業と生活を結ぶ国の基盤を作る
農業土木は、土地改良事業や農業農村整備事業とも呼ばれ、良好な営農条件を備えた農地・農業用水を確保・活用し、農業の生産性の向上等を促進するため、農業生産に欠くことのできない農地や農業水利施設等の農業生産基盤を整備・管理するものです。これまでに全国で造られた農業水利施設は、水路延長約40万kmにも及んでいます。
人口の減少や高齢化、自然災害のリスクの高まりなどの課題に対して、「豊かで競争力のある農業」、「美しく活力のある農村」を下支えする「強くてしなやかな農業・農村」を目指すため、ほ場整備や用排水施設整備などが行われています。
また、近年では、地震や集中豪雨といった災害を防止し、農村地域の防災力の向上を図るため、全国に20万箇所も存在するため池の改修、農地や周辺地域を湛水被害から守る排水機場の改修といった防災・減災対策も積極的に行われています。
農業土木の主な設計内容
ほ場整備設計
ほ場整備とは、農作業の大規模化や効率化を目的として行われる農地(水田や畑)の区画整理工事です。農地の整備とあわせて、農道、用水路、排水路等の整備も一体的に行われます。近年では、農地の拡大に加え、高収益作物の導入が可能となる地下かんがいシステムの導入や用水管理のICT化も進められています。
ため池設計
ため池とは、降水量が少なく、流域の大きな河川に恵まれない地域などで、農業用水を確保するために水を貯え取水ができるよう、人工的に造成された池のことです。全国にため池は、約20万箇所あり、江戸時代以前に作られたため池も多く、大雨や地震などにより決壊の恐れがあり全国各地で改修が進められています。
用水施設設計
河川等から取水した用水を水田や畑に送水するための施設で、用水路、揚水機場及び中間貯留施設などで構成されます。水路は形態により開水路・暗渠・管水路・トンネルに区分され、開水路・暗渠・トンネルは自由水面を持った流れ、管水路は満流の流れとなり、既製品や現場打ちの鉄筋(無筋)コンクリートで造られます。水頭が不足する場合や取水地点よりも高位部に送水する場合は、揚水機場(ポンプ場)と呼ばれる施設を設けます。また、畑地かんがいのように用水の供給と需要に差がある場合には、ファームポンドと呼ばれる中間貯留施設を設けます。開水路は農業用水としての本来の機能に加え、防火用水や親水などの多様な機能を有しています。
排水施設設計
常時や洪水時の排水を安全に河川や海へ排水し、農地の湛水被害を未然に防止するための施設で、排水路、排水機場(ポンプ場)、排水樋門、調整池、遊水池等で構成されます。排水先である河川や海の水面よりも地盤が低い地域では、排水が困難なため排水機場が果たす役割は非常に重要です。
頭首工設計
河川から農業用水を水路に引き込むために設ける堰や取り入れ口の総称で、用水路の最上流部(head)に設けられるため頭首工と呼ばれています。堰は、可動堰と固定堰の2形式があり、堰本体の他に、魚道、護床、護岸などの附帯施設があります。
再生可能エネルギー設計
太陽光、風力、水力等の再生可能エネルギー源は、永続的な利用が可能であるとともに、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しないクリーンエネルギーです。農山漁村においてその適地は豊富に存在し、地域活性化や発電した電力を管理費などに活用することができるため、農業用水利施設を活用した太陽光発電、農業用水を活用した水力発電の導入が図られています。写真は小水力発電施設です。
農業水利施設機能診断・機能保全計画設計
全国各地にある農業水利施設の多くは、戦後から高度成長期にかけて整備されてきたことから、老朽化が進んでいます。標準的な耐用年数を経過している施設は相当数にのぼります。機能診断・保全計画とは、施設の機能がどのように低下していくのか、どのタイミングでどのような対策を行えば効率的に長寿命化ができるのかを検討し、施設の有効活用やライフサイクルコストを低減する取り組みです。